戦争と経済の大事な話
戦争と経済の関係はかなり密接なものがありますが、今回は経済学者の目線から解説してみます。
経済学が戦争を扱った論文として有名なのが、ピグー、ケインズ、ガルブレイス、ポーストです。
戦争の経済的な原因として3つある。
①支配の欲求と利益への欲求
②製造業者・貿易商・金融業者による膨張政策への支持、つまり政治的帝国主義の後押し
③兵器製造業の利益追求
③の「兵器製造業の利益追求」は『軍事ケインズ主義』と言えます。
ケインズ曰く、「市場の失敗を修正するために、国家が介入すべきときがある」と説きましたが、それは公共事業として「軍備拡張」も含まれるということです。
- 2004年に発表されたガルブレイスの『The Economics of Innocent Fraud』
ガルブレイスは、ピグーが指摘した③の「兵器製造業の利益追求」のために、国家は永続的に支出を拡大させ、戦争を商売にするインセンティブがあると考えました。
さらに、ガルブレイスはケインズ主義が軍事支出の増大を招き「軍産複合体」が形成され、それが企業官僚に支えられて独占資本になってしまったと批判しました。
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- 2007年に発表されたポール・ポーストの『戦争の経済学』
ポーストが、アメリカが関わった戦争を詳細に分析することによって見つけた「戦争の鉄則」は4つある。
①戦争前のその国の経済状態
②戦争の場所
③戦争資源・兵士の動員の量
④戦争の期間と費用および資金調達法
①戦争前のその国の経済状態
1つめの鉄則は、「戦争による経済効果が期待できるときとは、そもそものその国が”不況”(デフレ)であることが前提」ということです。
戦争によって政府支出が必然的に増え、GDPが増大します。また、戦費調達のため通貨発行も盛んになるためデフレも脱却できます。これが「軍事ケインズ主義」の示すものです。
②戦争の場所
2つ目の鉄則は、「戦場はなるべく本国から遠いところがいい」ということです。
第2次世界大戦において、国土が戦場になったソ連の被害が一番大きかったのに対してアメリカは本土が戦場にならなかったために生産設備等が生き残り、戦後世界最大の経済大国になりました。
戦争の場所としては、「単に本土を攻撃されないというだけでなく、自国が依存している資源の供給国周辺、および輸送路も戦場にならない」という点も重要です。
③戦争資源・兵士の動員の量
3つ目の鉄則は、「戦争に動員できる労働力がどれだけ余っているか」ということです。
端的に言うと、失業率が高いときほど戦争の経済効果が高いということです。
また、「生産要素としてのインフラと、民間生産力に戦争に向ける余力があるかどうか」というのもポイントです。
時代が下るにしたがって、戦争の経済効果が低減していきます。その理由のひとつが、「労働集約型」の戦争から、ハイテク兵器による「資本集約型」の戦争への変化があるからです。戦争によって失業率を減らす効果の減少だけでなく、「平時の生産能力を戦争に奪われる」というデメリットも出てきたのです。
④戦争の期間と費用および資金調達法
4つ目の鉄則は、「戦争資金の得方は、国債発行・増税・通貨発行・非軍事部門の政府経費節減がある」ということです。
開戦前の経済状況がデフレならば、通貨発行が最も適しています。通貨発行で戦費を調達しつつ、デフレを脱却できるからです。
(※デフレは貨幣通貨量の不足によって起きるからです。)
- 国家が戦争をしない時代
戦争を「損得勘定」、または「一大プロジェクト」として考えたときに、メリットがデメリットを上回らなければ戦争する意味はありません。ポーストによると、アメリカは朝鮮戦争までの戦争には経済的なメリットがあったがそれ以降はあまり儲からない案件となっているそうです。
経済的な損失を考えると「国家間の戦争>内戦>テロ」という不等式が成り立ちます。
木原氏は2009年に、サンドラ、アルス、エンデルスの研究を引用し、「2005年のテロによる全世界のGDP喪失額は194億ドルにすぎず、同年のアメリカの国土安全保障費402億ドルに比べても小さい金額にとどまっている。」と指摘しています。
時代は変わり、これからはテロと経済の相互関係について考えなければならないようです。