魔王から読むファシズム論
魔王のあらすじ
「念じれば思ったことを何でも言わせられる腹話術の能力を持っていることに気付く主人公安藤。その能力を携えて1人の男に近づいて行った。」
「グラスホッパー」や「重力ピエロ」などの作品で知られる伊坂幸太郎さん。
2005年に出版された、これまた代表作「魔王」はすでにマンガ化や舞台化もされています。
この小説、全体を貫く考えは超能力でも兄弟の絆でもなく、ファシズム論ではないでしょうか。
社会的要素を小説に盛り込んだ、その理由として
「今までに影響を受けてきた小説や音楽には、たいがい、社会や政治の事柄がよく含まれていて、そこから滲んでくる不穏さや、切迫感や青臭さがとても好きだったから」(文庫あとがきより)
と発言しています。
そもそもファシズムとは...?
日本語に訳すなら全体主義。国家権力による富の掌握と再分配により格差のない社会を目指す。ファシズムの象徴としてムッソリーニやヒトラーがいる。
魔王の中では、まさにファシズム=全体主義と捉えていて、ことあるごとに主人公安藤が「これはファシズムではないか」と疑いの眼差しを送ります。
領海を犯す近隣国に対して、スポーツをきっかけに関係が崩れた元同盟国に対して、いとも簡単にこの国の人々は怒り、行動を起こします。
ハンバーガーショップを燃やし、アメリカ生まれ日本国籍のアンダーソンを襲う。
日常を保ちながらも、平和が崩れ去っていく様子が「魔王」には描かれています。
あらすじには、こうも書かれています。
「何気ない日常生活に流されることの危うさ。」と。
つまり、蔓延する風潮が悪いわけではない。何も考えず社会の流れに呑まれてしまうことが危険だということです。
主人公安藤の口癖は、「考えろ考えろマクガイバー」
これは小説中の話だけではなく、現実の私たちの世界にそのまま適用できる話ではないでしょうか。
誰かが、私たちのナショナリズムを駆り立て他民族や他国籍の人を排斥させようとするかもしれない。けれども、そのような形で国民が統一することは果たして善なのか。
そう考える必要性をこの「魔王」から学びました。
もう一つ、興味深い会話が安藤と行きつけのBarのマスターとの間で交わされます。
とあるロックバンドのライブで熱狂する人々。
安藤は言います。「バンドが命令を出せば、客は火だって点けかねない。」「思っているよりも容易くファシズムは起きるんじゃないか」
マスターは驚きの返しをします。
「もしそうだったとして、ファシズムの何が悪い?」「統率が必要だ」と。
そして例を出します。
「もし、この国の住人全員、いや全員でなくとも半分の人が。数千万人の人間がある目的をもって、ある広場に蝋燭をもって集まったとする。蝋燭を平和の象徴でも花束でもなんでも置き換えてもらっていい。もし、こんなことが起きたら、世界中の大半の問題は解決すると思わないか。」
安藤の、ヒトラーは600万人を殺したという主張に対しても
「ファシズムだから、と結びつけるのは単純じゃないか。では、民主主義は善か?民主主義は何人殺したんだ?資本主義はどれだけの人間の人生を損なった?」と返すマスター。
この話、結局マスターが優位に会話を終わらせてしまいました。
そうか、ファシズムが危険なことだと決めつけていたことがすでに、自ら考えず、日常生活に流されていたのだとこの時気づきました。
いつだって、どんな言葉だって私たちは安藤のようにこの口癖を持ち続けなければなりませんね。
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